前回の続き
どうも、もとけぃです。
今回は、前回に続いて冷蔵庫や洗濯機等の家具什器費の取扱いについて述べていきたいと思います。
前回の記事はコチラ⇒【生活保護】冷蔵庫や洗濯機等は一時扶助で支給可?①【家具什器費】
今回は、各地域の裁決事例(生活保護裁決データベースより)も交えて解説していきますので、現役ケースワーカーの方もぜひご覧ください!
近場にスーパー、コインランドリーがあっても支給可?
この裁決は大阪府(平成24年3月26日)によって行われており、全文はコチラです。
被保護者(審査請求人、以下「Aさん」という。)は、生活保護の開始がなされた後、食料品の貯蔵に必要なために冷蔵庫を、手洗いによる洗濯は腰に負担がかかるとして洗濯機を家具什器費として申請した。 しかし、吹田市福祉事務所は「Aさんは若く、病気や障害もないため食料の買い置きがなくても、徒歩5分圏内のスーパーでその都度購入すればよい。また、徒歩1分圏内にはコインランドリーも立地しているため、それらを支給しなければならない緊急やむを得ない事情があるとは認められない」として申請を却下した。 これに対し、Aさんは「冷蔵庫がない生活環境は健康被害を伴う恐れはおおきいのであるから緊急性は十分にあると言える。また、住まいの風呂場はユニットバスであるため狭く、洗濯物を手洗いすると常に腰に負担がかかることから、健康に問題が出るため、緊急性があると言える」として、審査請求を行った。
冷蔵庫や洗濯機の支給可否について、請求人と処分庁の意見が真っ向からぶつかった状態です。
これに対し、大阪府は次のとおり判断しました。
冷蔵庫については、請求人の年齢、健康状態を一定考慮して判断しているということはできるものの、それをもって、単に徒歩圏内に立地するスーパーの利用が可能であることから緊急性がないと判断したと見ざるを得ず、Aさんの請求人の生活状況、生活環境等も考慮して判断する余地があると思慮されることから、個々の世帯の状況に応じて判断したとは言えない。 また、洗濯機についても前述の条件は考慮しているものの、Aさんの風呂場が手洗い場所として適さず、腰に負担がかかるという個々の世帯の状況を考慮して判断したとは言えず、処分庁の主張を認めることは困難であるといわざるを得ない。 よって、本件保護変更申請却下処分を取消す。
以上のとおり、Aさん世帯の状況を十分に考えていないとして、却下した処分は取り消されました。
このように、検討が不十分であるとして却下処分が取消されることはままありますので、ケースワーカーの方も気をつけましょう。
じゃあ、本人の状況を十分に考慮して却下すればそれでよかったのかというと、そうでもなさそうです。
冷蔵庫はぜいたく品か?
この裁決は栃木県(平成18年11月6日)によって行われており、全文はコチラです。
路上生活をしていた被保護者(審査請求人、以下「Bさん」という。)は、支援団体の援助で保護開始となり、その際、冷蔵庫の必要性を訴え、保護変更申請書を提出した。 しかし、宇都宮市社会福祉事務所は「Bさんの世帯状況、健康状態及び近辺の地理的状況を検討し、冷蔵庫を支給する緊急やむを得ない状況ではなく、特別基準を設定すべき真にやむを得ない事情はない」と判断し、申請を却下した。 これに対し、Bさんは「冷蔵庫が食品の腐敗を防ぐために現代の日常生活では欠くことのできない電化製品であることは、その普及率98パーセントをみても明らかであって、家具什器費の支給品目として認めない解釈、運用は社会通念上きわめて合理性を欠くものと考える」として、審査請求を行った。
冷蔵庫は、既にほとんどすべての世帯が保有している家電であり、はたしてこれを支給しないという取扱いが正しいのかを問う審査請求となっています。
これに対し、栃木県は次にとおり判断しました。
冷蔵庫は本県において普及率が100%に近く、このことは食料品も多くが冷蔵を前提としていること、価格も基本的な機能のみであれば比較的安価で入手できること等に起因するものと思われる。すなわち、今日における一般的な社会生活を営む上で冷蔵庫は最も基礎的かつ日常的な家具什器の一つというべきであり、これらの事情を考慮しない処分庁の判断は狭きに失するものといわざるを得ない。よって、請求人には冷蔵庫を保有すべき真にやむを得ない事情がないとする処分庁の判断には誤りがある。 よって、本件保護変更申請却下処分を取消す。
つまり、冷蔵庫は社会通念上どの世帯でも当たり前に有しているものであり、その普及率を考慮せずに支給しないというのは時代に即してないんじゃない?と示されています。
先ほどものに比べて一歩踏み込んでおり、生活保護制度上の手続き上の瑕疵というよりは、そもそも今日において冷蔵庫そのものを家具什器費として支給すべきではないかを問うている裁決ですね。
こういった考え方を示している裁決をもう一つ紹介したいと思います。
洗濯機はぜいたく品か?
この裁決は千葉県(平成24年12月26日)によって行われており、全文はコチラです。
被保護者(審査請求人、以下「Cさん」という。)は、夏季に保護開始となった際、家具什器費の持ち合せがないとして「洗濯機、折りたたみコタツ、電子レンジ、炊飯ジャー」にかかる費用の保護変更申請を行った。 しかし、千葉県■■福祉事務所は「洗濯機は保有の緊急性があるとは認められない」として、洗濯機以外の家具什器費のみを認定した。 これに対し、Cさんは「洗濯機の却下は不当」として、審査請求を行った。
洗濯機以外を認めているあたり多少は温情的と思えなくもないですが、洗濯機が支給対象とされるべきか否かを問う審査請求となっています。
なお、この福祉事務所は反論のひとつとして「申請のあった全自動洗濯機がない場合の労力や時間が、全自動洗濯機を使用した場合と比べ、健康で文化的な最低限度の生活を阻害するほど多大なものとは言えず、保有の緊急性があるとは認められない」と付け加えています。
これに対し、千葉県は次のとおり判断しました。
洗濯機は、それがいかなる型式のものであるかを問わず、現代においては、社会通念上、最低生活に必要不可欠な物資であるといって過言ではなく、また、本件申請が行われたのが夏季であることからすれば、洗濯機は、コタツより、支給の緊急性が高いと認められる。 それをふまえると、他の家電は認定し、洗濯機については認めないというのは、妥当性を欠くほかない。 よって、本件保護変更申請却下処分を取消す。
ここでは、洗濯機はどのようなものでも現代社会において必要不可欠と言ってよく、他の生活用品としての家電が認められるのであれば、洗濯機の支給を認めるのが妥当であるとまで述べています。
これもひとつ前の裁決同様、県の判断にしては踏み込んだ内容だと考えます。
※ここでは、却下処分の理由付記不十分についても述べられていますが、これはどの通知にも言えることであるため割愛します。
まとめ
以上、冷蔵庫や洗濯機等の生活保護制度上の取扱いについて、裁決を紹介してきました。
もちろん、各世帯の状況を踏まえたうえで支給可否を検討することとはなっていますが、裁決が少し前のものであることを考えると、現代ではより認められるべき品目になっていると思われます。
ケースワーカーの皆さんも、前例がないからといって無条件で申請を却下すると痛い目を見るかもしれませんね。
生活保護を受ける方も最初からあきらめず、まずは申請してその妥当性を問うこととしましょう。
以上、ご確認の程よろしくお願いいたします。
コメント
コメント失礼します。
家具什器費の事初めて知りました。ケースワーカーが訪問した時に告知する義務はあるのでしょうか?
自分の家は訪問時テレビと冷蔵庫しかなく、食器やコンロ、洗濯機も無い状態なのに。今月認定されましたが、今からでも抗議するべきですか?アドバイス頂けると嬉しいです。
中井 様
コメントありがとうございます。
保護変更は一般に本人の申告、届出が中心となって行われるべきものですが、ケースワーカーも訪問時に家具什器の状態を確認し、必要に応じてアナウンスすべきではありますね。
生活保護開始が今月ということでしょうか?
それであればまだ申請すれば認定される余地があるかもしれませんので、福祉事務所に相談してみましょう。