行政対象暴力への対応
福祉事務所に限った話ではありませんが、市役所等の窓口には、ときには不当な要求をしてきたり、無意味に居座ったりする来訪者がいます。
そのような行為を「行政対象暴力」といい、その態様や程度等によっては刑罰法令に触れる行為にいたる場合もあり、必要な知識として関係法令は熟知していることが望ましいと考えられます。
今回は、以前に厚生労働省が作成した相談対応の手引きより、行政対象暴力部分を抜粋・要約したものを紹介しようと思います。
法律関係まとめ
「生活保護における相談対応の手引き」について
(平成21年7月9日 厚労省保護課長発 事務連絡)
○刑法犯となるもの(例)
公務執行妨害(刑法第95条第1項) 福祉事務所で窓口対応に出た職員に対して、拳で顔を殴りつける等の暴行を加えたり、殺してやるなどといって脅迫する行為。
職務強要(刑法第95条第2項) ケースワーカーを脅迫して生活保護の受給において有利な取扱いを強要したり、特定の団体に所属する者を優先的に受給者にすることを強要する行為。
威力業務妨害(刑法第234条) 生活保護の受給に関して不満を持っている者等が福祉事務所に来訪し、自身に刃物を突きつけ「死んでやる」等騒ぎ立て、生活保護業務を滞らせる行為。
器物損壊(刑法第261条) 窓口の書類やボールペン等を投げ捨てたり、訪問車両を蹴飛ばしたり、庁舎の塀などに汚物やペンキを塗りつけたりする行為。
暴行(刑法第208条) 殴る、ける、腕をねじる、頭髪や衣服をつかんで引きずり回したり、身体を激しく突き、又は押し倒す行為。 また、「つばを吐きかける」など、けがを負う可能性の有無に関わらず「不当な有形力の行使」が認められる行為は法的には暴行とされる。
傷害(刑法第204条) 拳、木刀などで殴打して打撲傷を負わせたり、度重なる電話によりノイローゼや不眠症等に陥らせる行為。
脅迫(刑法第222条) 殺してやる、命はないものと思え、家に火をつけてやる等と告げる行為。
恐喝(刑法第249条) ケースワーカーに対して、生活保護受給において便宜を図るよう脅迫文書を郵送するなど、畏怖させることによって金品等を略取する行為。
強要(刑法第223条) 暴行や脅迫をもって、書面にしろ、謝罪しろ、辞職しろ(させろ)等と義務の無いことを行わせ、または権利の行使の妨害を要求する行為。
名誉棄損(刑法第230条) ケースワーカーや福祉事務所の名誉を棄損する記事を新聞紙などに掲載し、これを頒布する行為。
建造物侵入・不退去(刑法第130条) 福祉事務所の措置に対する抗議を内容とする宣伝ビラを、職員に配布する目的で強引に福祉事務所等庁舎に入る行為。
窃盗(刑法第235条) 職員が目を離した隙に、カウンター上に置かれた福祉事務所の書類を持ち去る行為(自由に持ち帰ることができる「パンフレット」や「リーフレット」等は除く。)。
公用文書毀棄(刑法第258条) ケースワーカー等が提示した福祉事務所保管の文書を破り捨てる行為。
監禁(刑法第220条) 訪問中にケースワーカーが「帰ります」と辞去の意思を伝えているにもかかわらず、滞在を要求・強要したり、訪問中に「帰ったら殺すぞ」等の脅迫によってケースワーカーが訪問先から辞去できないような心理状態におくなど、一定の限られた場所からの移動を不可能あるいは著しく困難にすることによって行動の自由を制限する行為。
以上が、刑法にかかわるもので、次はそれ以外のものを紹介しています。
○特別法犯となるもの(例)
暴力行為等処罰に関する法律違反 暴力団等の名前を告げたり、刃物をちらつかせたり、2人以上で共同して人を殴りつけたり、脅したり、物を壊す行為(集団的暴行、脅迫、器物損壊の罪)。
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律違反 指定暴力団員が暴力団の名前を告げたりすることで、その威力を示し、生活保護法等法令の要請する手続きを経ないで関係者が行った保護申請を承認することを要求する行為等(指定暴力団員による行政対象暴力に対して都道府県公安委員会が中止命令を行える)。
ストーカー行為等の規制等に関する法律 「つきまとい・待ち伏せ・押しかけ」、「監視していると告げる行為」、「面会・高裁の要求」、「乱暴な言動」、「無言電話、連続した電話、ファクシミリ」、「汚物などの送付」、「名誉を傷つける」、「性的羞恥心の侵害」からなる「つきまとい行為」をいい、これら「つきまとい行為」を同一の相手に繰り返すことを「ストーカー行為」という。福祉事務所の職員に対して上記のような行為が行われた場合も同様にストーカー規制法の対象になる(ストーカー行為等について警告、禁止命令等を警察が行える。いわゆる「ストーカー規制法」)。
以上が違法行為等です。
私が現役ケースワーカーの時代も、不退去罪は適用したことがあります。
やはり、公務員はそれ以外の人よりも守られているというような気はしますね。
さらに、普段から地域の刑事課とは仲良くするようにしていました。度を超すと問題になるかもしれませんけどね…。
福祉事務所の体制整備が重要
こういった法律を知っていると「いざというときも安心」という気持ちにはなりますが、「面倒ごとは避けたい」という上司だと、明らかな不法行為でも警察への通報を躊躇する場合があり、それでは職員は疲弊しますよね。
不法行為は、本来サービスが必要な人への支援が滞ってしまうときもあるため、当然に毅然とした対応が必要です。
ただ、これらはあくまでも不当・不法行為に対する対応なので、適法な訴えや行動等をとる相手に無理やりこじつけて法を適用することのないよう注意が必要です!
以上、ご確認の程よろしくお願いいたします。
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